バットを握ってベンチから出てきた宮野の姿に、観客はざわめいた。そして場内アナウンスが「代打宮野」を告げると、スタジアムは大歓声に包まれた。

スコアが動かなかった試合中盤には、スタンドの後方にはいつものように雑談をする観客もいた。しかしこの場面で雑談しているものなどいなかった。球場全体が宮野の打席に注目していたのだ。


活躍できなければ引退するという覚悟で臨んだこの試合、ベンチスタートのまま出場するチャンスがなかなか訪れなかった。しかし宮野は腐ることなく、ベンチから声を出し続けていた。序盤から気持ちは臨戦態勢だったのである。


川西も、そんな宮野の姿をずっと見ていた。だからこそ今まで以上にこの打席に期待していた。宮野が声を出し続ける姿を見て、この試合に勝ちたいという思いがきっと宮野には強くあると、川西は感じていた。


試合に出ずに終わる運命かと思い始めたところだった。そんなギリギリで転がり込んできたこのチャンスを、宮野は絶対にものにしたいと思った。宮野はゆっくりとバッターボックスへ向かった。


バッターボックスに立つ宮野。観客は大きな声援を送った。そしてベンチにいるオイスターズナインも、これまでの宮野へのお返しとばかりに声を出した。そのすべてから勇気を受け取った宮野に、第一球目が投げられた。

(つづく)


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